グランディ・21 宮城県総合運動公園

スポーツ医科学情報提供事業

「スポーツ栄養の役割」

仙台大学    
教授 藤井 久雄

 

近年、「スポーツ栄養」の大切はどんなレベルのアスリートでも認めるようになってきた。しかしながら、スポーツが上達するためには、第一に、理にかなったトレーニングが大切であることは言うまでもない。このことは、トレーニング効果を最大限利用して競技力を高めるためには、トレーニング、そして栄養・食事を両軸として考えることが大切であることを示している。

ここでは、まず、アスリートの「毎日の食事」をどう考えるか。そして、どんなスポーツでも当てはまるように、「運動前」と「運動後」の食事をどう考えるか。この3つの食事のポイントについて概説する。

(1)毎日の食事をどう考えるか

すでに、多くのアスリートや指導者が知っているように、毎日の食事で大切ことは、栄養のバランスに気をつけ、自分にとって適量を食べる規則正しい食習慣を身につけることである。

?1日の適量とは?

1日に使われるエネルギー量(エネルギー消費量)は、図1に示すように、基礎代謝量と活動代謝量の和となる。まず、表1に示す基礎代謝基準値を用いて、自分の基礎代謝量を推定し、つぎに表2により身体活動レベルを知り、基礎代謝量に身体活動レベルを掛けることで、およそのエネルギー消費量を求めることができる。この量が、即ち、1日の食事量となる。身体活動レベルとして、トレーニング期では高い「2.00」、試合期やトレーニングオフではふつうの「1.75」程度で計算してみることを奨める。

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例:体重70kg(20歳)の選手のトレーニング期における1日の食事量

基礎代謝量   24.0(基礎代謝基準値)  x  70(体重) =1680 (kcal)

食 事 量  1680(基礎代謝量)  x  2.00(身体活動レベル) =3360 (kcal)

例の選手の場合、朝食、昼食、夕食において、3360÷3≒1100 (kcal)を目安にして、各食事のプランを立てればよい。以後、定期的な体重測定を行い、体重や体脂肪量の増減を管理することにより、食事量を微調整することになる。pic10.png

?栄養のバランスは?

五大栄養素(炭水化物・脂質・たんぱ

く質・ビタミン・ミネラル)のバランスで考えるか、また、これらの栄養素が含まれる食品のバランスで考えるか、2つに大別できるが、ここでは後者を勧めたい。この方法にも、様々なものがあるが、日本人であれば、毎食ごと、主食・主菜・副菜・果物・乳製品がそろうメニューを考えて食事を摂る、すなわち「栄養フルコース型」の考え方がよいであろう。毎食ごと、栄養フルコースを満たすことが難しいのであれば、1日あたりでバランスを整えればよい。また、コマをイメージしたイラストを用いた「食事バランスガイド」(※1)も主食・副菜・主菜・牛乳乳製品・果物を「サービング」(※2)という独特な単位で個々の基準値を設定したガイドもある。

(2)運動前の食事をどう考えるか

どんなスポーツであれ、運動前には、まず、「十分にエネルギー源の供給をすること」、そして「脱水の予防に心がけること」が大切となる。

?運動前のエネルギー源の供給

図2には、グリコーゲン・ローディング法を示した。この方法は、試合3?4日前から、意識的に高炭水化物中心の食事にすることにより、運動の筋肉をはじめとする主要な臓器の炭水化物(グリコーゲン)を十分に補充して、スタミナ切れを防止する手法である。試合3?4日前になったら、前日までは、普段の食事に比べて主菜の量を減らし、その分主食の量を増やすメニュー(高炭水化物食)にし、当日は、主食中心の食事や捕食(おにぎり、もち、栄養補助食品(エネルギー補給向け)等)をとるのである。ただ、この手法の効果を期待するには、先に述べた毎日の食事をしっかりと実践していることが大切であることを忘れてはならない。

?脱水の予防

運動中に、体重の1?2%程度の脱水に陥ることでも、パフォーマンスに重大な影響を及ぼす。近年、多くのアスリートや指導者は、そのことはよく認識しており運動中の飲水の仕方について実践していることが多い。表3に日本体育協会の指針を示した。ただ、運動前においても、食事、そしてウォーミングアップのときに250?500ml程度の飲水をしてほしい。言うなれば「水のウォーミングアップ」である。ただ、適切な飲水量は? 個人差があり、環境、体調、緊張の度合等の影響も受ける。そのため、日ごろから尿量やその色に注意するとよい。体調のよいときのその量や色を覚えておくのである。試合当日、アスリート自身が、早朝一番尿をチェックし、量や色から環境条件を加味して、自分に必要な飲水量を考える。日ごろから実践していれば、そう難しいことではなくなるであろう。

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(3)運動後の食事をどう考えるか

どんなスポーツであれ、運動後には、まず、疲労回復を早めるために「グリコーゲンの合成を増大させる」、そして体づくりのために「筋たんぱく質の合成を増大させる」ことが大切となる。

?運動をしたらできるだけ早くたんぱく質と炭水化物を!

運動後の食事において、重要となる栄養素は炭水化物とたんぱく質である。炭水化物は運動により使われたエネルギー源の補充、そしてたんぱく質は体(筋肉)づくりの主成分となるからだ。一方、グリコーゲン合成に欠かせないホルモンのインスリンは、たんぱく質合成を促進させる機能も有していることがわかっている。したがって、運動後の食事では、炭水化物とたんぱく質を同時に摂取することが大切となる。図3には、運動後の食事についてまとめた。炭水化物とたんぱく質をより多く摂るためには、脂肪の量を減らすことがポイントとなる。そのため、例えば、脂肪摂取を控えることができる和定食のようなメニューが推奨できる。その他、食材選び(牛ヒレ、白身魚、鳥ささ身等)、調理法(焼く、蒸す等)を工夫することも大切となる。

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図4には、たんぱく質合成が、たんぱく質と炭水化物の摂取を運動直後、または2時間後の2時点でどの程度違いがあるかを検討した実験結果を示した。図4のとおり、明らかに、運動直後に摂取をした方がよいことがわかる。このことは、運動をしたらできるだけ早くたんぱく質と炭水化物を摂取した方がよいことを示している。したがって、運動をしたらできるだけ早く食事をするようにしてほしい。しかしながら、運動する環境等により、前述した食事を早めにするにも限界がある。そこで、最近、ここに示した学術的知見より、様々な栄養補食品が販売されている。ただ、それに頼りすぎる必要はなく、運動と食事のつなぎとして、運動後でも無理なく口にできるたんぱく質や炭水化物を豊富に含む補食(おにぎり、パン、牛乳、ゆで卵等)を摂るように心がける。これだけでも、運動後の食事の効果を助長させることが期待できる。

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以上、トレーニング効果を高めるため、栄養・食事の役割について、その基礎を概説した。是非、今日からを実践していただきたい。

【関連URL】

※1 農林水産省HP「食事バランスガイド」について
   http://www.maff.go.jp/j/balance_guide/
※2 農林水産省HP「食事バランスガイド」サービング数計算と表示のルール
   http:// www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/use/rule.html